研究開発

「旨さ長持ち麦芽」~大麦育種からおいしさに挑戦~

酸化はビールのおいしさを損ねる

イメージ:ビールのおいしさを損ねる、脂質酸化のメカニズム
ビールのおいしさを損なう、脂質酸化のメカニズム

ビールは、新鮮なほどおいしいと言われています。それは、ビールも時間とともに老化し、もともと持っていたおいしさが徐々に損なわれていくからです。このおいしさを損なう原因のひとつがビール成分の酸化です。

「紙臭」と言われる代表的な老化臭は、原料の大麦が持っていた脂質が酸化されることによって生じます。この酸化に関わっているのが、リポキシゲナーゼ−1(LOX-1)という大麦の脂質酸化酵素です。

LOXレス大麦の開発秘話~原料からビールをおいしくしたかった

LOXレス大麦の開発秘話~原料からビールをおいしくしたかった

サッポロビールの研究者がLOX-1レス大麦の開発に取組むきっかけとなったのは、「五感に感じることができる画期的な大麦を開発できないか」というアイデアからでした。おいしさに貢献できる大麦をつくるべく、様々な文献調査を実施し、たどり着いたのが「LOX-1を持たない大麦を見出し、品種育成すること」、すなわち「LOXレス大麦の開発」でした。

醸造技術研究所(サッポロビール社・当時)では、ビールのおいしさを保つ技術が精力的に研究されており、「フレッシュキープ製法」など重要な成果が得られていた頃でした。また、共同研究先の岡山大学には1万種類を超える大麦遺伝資源が保管されていたことから、LOXレス大麦があるとの信念を持って探索を続けること1年、未来の大麦育種の武器となるLOXレス大麦が発見されました。

世界の大麦畑へ普及、サッポロ生ビール「黒ラベル」で活躍

イメージ:世界の大麦畑へ普及、サッポロ生ビール「黒ラベル」で活躍

小規模の醸造試験にて理論通り「ビールの旨さを長持ちさせることができるのか」を検証したところ、LOXレス大麦を使った試験品は、目標としていたトリヒドロキシオクタデセン酸とトランス-2-ノネナールの低減が確認され、味・香りともに「老化度が低い」と評価されました。さらに、ビール類の重要な視覚的要素である「泡持ち」も良くなっていることがわかりました。

サッポロビール社では、このLOXレスという性質を持つ大麦品種を世界中で開発するため、日本はもとより、大麦産地であり大切な原料調達先でもあるカナダ、オーストラリア、ヨーロッパにおいて、パートナーとともに精力的な育種を続けています。中でも、カナダはLOXレス大麦育種が最も進んでおり、CDC PolarStar、CDC PlatinumStarといった当社開発のLOXレス品種の普及に成功し、「サッポロ生ビール黒ラベル」に「旨さ長持ち麦芽」として実用化されています。さらには、「旨さ長持ち麦芽」を100%使用した「サッポロ生ビール黒ラベル エクストラブリュー」も開発されました。2018年にはカナダの新品種CDC Goldstarが新たに品種登録され、国内では、国産初のLOXレス品種「きたのほし(品種登録名:札育2号)」が北海道産ビール大麦の主力品種として生産量を拡大するなど続々と各地で開発・普及を進めています。

サッポロビールは、「リポキシゲナーゼ欠失変異を利用した高品質ビールオオムギ品種の育成」として、岡山大学、サスカチュワン大学(カナダ)、アデレード大学(オーストラリア)とともに、2015年度日本育種学会賞を受賞しました。

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担当研究者からのひとこと

サッポロビール 原料開発研究所
廣田 直彦

所属は、2020年3月時点のものです。

写真:廣田 直彦さん

探索を続け、世界で初めての発見となったLOXレスという特徴をもつ大麦は、基礎研究にはじまり大麦育種、普及、調達、製造、販売へと襷が繋がれ、ようやくお客様にサッポロビールこだわりの商品としてお届けすることができるようになっています。しかし、品種開発についてはやるべきことがまだまだ沢山あると考えています。現在ある各地の品種の拡大を図るとともに、さらに品種開発力や品種力を向上させて、世界の大麦畑をLOXレス品種で埋め尽くしたい・・・そんなことを夢見ています。ぜひとも、LOXレス大麦から造った麦芽、すなわち「旨さ長持ち麦芽」が味わえる「サッポロ生ビール黒ラベル」を楽しんでいただければと思います。

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