サステナビリティ
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気候変動への取り組み

TCFD

サッポロホールディングスは、企業における気候変動のリスクと機会に関する評価・管理、情報開示を促すTCFDの提言に賛同しており、積極的な情報開示を進めています。
気候変動対応が地球規模で取り組むべき最重要課題の一つであると認識し、「緩和」と「適応」の両面から課題解決に向け、将来発生する可能性のある事業環境をシナリオ分析により複数想定した上で、リスクと機会を洗い出し、その結果を戦略や取り組みに反映しています。

ガバナンス

サッポログループは、サッポロホールディングス代表取締役社長を委員長とする「グループリスクマネジメント委員会」「グループサステナビリティ委員会」を「経営会議」の諮問機関として設置しています(注)
「グループリスクマネジメント委員会」では、リスク全般のマネジメントに組み込まれており、委員会事務局が半期ごとにグループにおける水リスク・気候変動関係を含むリスクの発生状況や対応、再発防止について取締役会へ報告します。「サステナビリティ委員会では、グループ全体でサステナビリティ経営を推進するための全体方針を策定し、グループ内の調整を行い、担当取締役が半期ごとに気候変動対策における課題対応の進捗状況について取締役会へ報告します。取締役会は、これら報告を受けた課題への取り組みや設定した目標をモニタリングし、監督します。

(注)コーポレートガバナンスと内部統制

サッポログループのサステナビリティ推進体制(2022年3月時点)

戦略

サッポログループでは、脱炭素社会の実現に向け2019年に「サッポログループ環境ビジョン2050」を策定し、脱炭素を志向した事業構造改革、省エネ対策の徹底に加え、再生可能エネルギーの活用で地球温暖化防止に取り組んでいます。
その中で、基軸のビール事業では、1876年創業時から主原料の大麦とホップの育種を自ら行い、2006年から「協働契約栽培」という独自の原料調達システムを採用しています。今後は後述の各シナリオによる原料の収量への影響を想定し、サッポロビール原料開発研究所を拠点に国内外の大学や研究機関、サプライヤーと連携しながら新品種の開発、そして安定調達に努めていきます。副原料のトウモロコシ、コメも安定調達のためサプライヤーと連携を強化していきます。
グループ全体での徹底した脱炭素の取り組みと、ビール事業で140年以上に亘り培ってきた原料づくりの取り組みで、気候変動へ緩和と適応(※)の両面から課題解決に挑み、レジリエントな企業体を目指すとともに持続可能な社会の構築に貢献します。

※ 緩和:温室効果ガスの排出を抑制すること
適応:温暖化の影響に対して自然や人間社会のあり方を調整すること 《環境省資料より》

戦略

シナリオ分析結果

基軸のビール事業で気候変動による影響が想定されるビール原料農産物の調達地域を対象とした、シナリオ分析を実施しました。国際連合食糧農業機関(FAO)のシナリオ分析データなどを基に、異常気象などの要因を考慮して補正しており、気候変動要因、経済社会要因、生産量に関する要因がそれぞれ異なる3つのシナリオについて、2050年までの収量の変化を想定しています。

気温上昇 異常気象(台風や洪水、
干ばつ等)
農業関連動向 その他社会動向
サステナビリティ
進展シナリオ
1.5℃ ある程度増加(-) 化学肥料などの使用に
関する規制強化(-)
人口増加、生活水準向上、食料需要増加、食料価格の一定程度上昇
サステナビリティ
標準シナリオ
BAU 頻発化や被害拡大(-) 品種改良や設備投資の
増加(+)
人口増加、生活水準向上、食料需要増加、食料価格の上昇
サステナビリティ
停滞シナリオ
4℃ 激甚化(-) 作物の病害が多発し
農業被害が拡大(-)
食料価格高騰、貧困層の食へのアクセス困難化

+:収量にプラス影響  -:収量にマイナス影響

※ 気温上昇は2024年3月に一般的な基準値表現に変更しています。

主要調達国の収量増減予想

サステナビリティ進展シナリオでは、化学肥料使用に規制がかかる影響等で収量にマイナス影響を与えることを想定しています。収量推計が増加基調の国では上表のマイナス要因を受けても増加や横ばいを保つ場合があります。

大麦

進展 標準 停滞
ヨーロッパ
北米
オセアニア
東アジア

ホップ

進展 標準 停滞
ヨーロッパ
北米
オセアニア
東アジア

トウモロコシ

進展 標準 停滞
北米
南米

コメ

進展 標準 停滞
東アジア
:>5%
:±5%以内
:<-5%

2050年時点の収量推計が、2018年時点の収量と比較し、増加(↑)、横ばい(→)、減少(↓)しているかを示す。

財務影響分析

原料農産物調達への影響

2023年は上記のシナリオ分析の結果を元に、原材料の調達コストに影響が大きいと予想される以下の項目について財務影響を分析しました。本分析は、2022年度における全調達を元に、気候変動関連の影響による価格増加分のみを試算しています。

環境規制の強化による有機栽培の拡大

化学肥料や農薬の使用が制限され、有機栽培が世界的に普及した場合の財務影響を試算しています。
有機栽培では、「収量の減少」、「除草や害虫対策などの労働コストの増加」、「化学肥料や農薬の代わりに使用する有機肥料や天然の農薬への切り替えによるコスト増加」などの理由により価格上昇が予想されます。
有機栽培由来の原料価格は、慣行栽培と有機栽培由来の市場価格データから上昇率を算出し、価格の上昇分を試算しました。

エネルギー価格高騰による調達価格の上昇

国際エネルギー機関(IEA)が発表した「World Energy Outlook」に基づいて、将来のエネルギー価格を試算しています。
原材料ごとの生産コストに占めるエネルギー価格の割合を計算し、エネルギー価格の上昇が生産コストに与える影響を試算しました。さらに、エネルギー価格の上昇による肥料の製造コストへの影響も試算し、その影響を原材料の生産コストに反映しています。

原材料(大麦、ホップ、トウモロコシ)の収量減少よる原材料価格の上昇

過去に行った原材料の収量変化に関する予測データ、および気候変動が農作物に与える影響に関する文献を参照し、影響額を試算しました。収量の減少率に応じた価格の上昇率を設定し、原材料価格を試算しました。

分析結果の概要

シナリオ別:気候変動による原材料価格の上昇(2022年比較)

シナリオ別:気候変動による原材料価格の上昇(2022年比較)

(単位:億円)

2030年 2050年
進展シナリオ 2.0 5.5
標準シナリオ 1.3 5.0
停滞シナリオ 2.5 7.7

各シナリオで最も財務影響の大きかったものは、停滞シナリオでした。停滞シナリオでは、「エネルギー価格高騰による調達価格の上昇」による影響が最も大きく、原材料の収量減少よる原材料価格の上昇」による影響とで、2030年時点で2.5億円、2050年時点で7.7億円という結果になりました。次に影響の大きかった進展シナリオでは、「環境規制の強化による有機栽培の拡大」による影響で、2030年時点で2.0億円、2050年時点で5.5億円という結果になりました。標準シナリオでは、「原材料の収量減少よる原材料価格の上昇」、「環境規制の強化による有機栽培の拡大」による影響で、2030年時点で1.3億円、2050年時点で5.0億円という結果になりました。

品目別の財務影響の結果

品目別:気候変動による原材料価格の上昇(2022年比較)

品目別:気候変動による原材料価格の上昇(2022年比較)

品目別にみると調達額の一番大きい大麦(麦芽含む)が、各シナリオで最も価格上昇のある品目となりました。進展シナリオでは、調達金額の大きさに連動して各品目ごとの影響が生じていますが、標準シナリオと停滞シナリオでは、調達金額の一番少ないトウモロコシが2番目に高い金額となりました。これは、標準シナリオと停滞シナリオ共に、トウモロコシの収量が大きく減少することが予想されており、その影響が大きいと考えられます。

炭素税導入によるScope1,2への影響

炭素税導入による財務影響は、IEAのNZEシナリオに基づき、自社拠点のエネルギー使用量から試算をしました。
2030年、2050年時点において、自社もCO2削減目標が達成できた場合とで出来なかった場合の財務影響を分析しました。

温室効果ガス削減目標が達成できた場合の排出量
(千t)
温室効果ガス削減目標が達成できなかった場合の排出量
(千t)
温室効果ガス削減目標が達成できた場合の炭素税に関するコスト
(千円)
温室効果ガス削減目標が達成できなかった場合の炭素税に関するコスト
(千円)
2030 110 189 1,813,440 3,130,869
2050 0 189 0 6,055,178

1USD=133.36円
IEA:NZEシナリオ
炭素税2030年:先進国130USD、新興国90USD、発展途上国15USD
炭素税2050年:先進国250USD、新興国200USD、発展途上国55USD

計画通りに排出量を削減できた場合、2030年:110千t、2050年:0tをそれぞれ見込んでいます。
一方で、削減目標を達成できなかった場合、2022年の排出量が継続することを想定し2030年、2050年それぞれの排出量を189千tと見込みました。
削減目標を達成できなかった場合、できた場合をそれぞれ比較すると、2030年は約13.2億円、2050年は約60.6億円のインパクトがあるという結果となりました。

リスクと機会、対応・施策の方向性

シナリオ分析の結果によると、各シナリオでビール原料農産物の収量が減少する地域があることがわかりました。これらの影響を含めて、3つのシナリオが現実化した場合を想定し、サッポログループが直面するリスクと機会について検討を行いました。
リスクについては、異常気象による農作物の収量減少、規制強化、病虫害などによる品質低下などを認識しています。一方で機会については、品種改良による品質の安定化、新品種の開発、商品開発等による競争力の強化を認識しています。緩和策や適応策を強化することで、リスクの影響が低減され、機会を獲得できる可能性が大きくなると捉えています。
収量減少の傾向が各地域で生じますが、地域差に応じて、多角的に調達先を確保することにより対応します。また、農薬に関する規制強化、病害による収量減や品質低下には、協働契約栽培の活動や新品種の開発・実用化で対応していきます。これらは、いずれのシナリオに対しても効果を発揮する施策です。

こちらの表は横にスクロールしてご覧いただけます。
項目 リスクと機会 影響時期 財務影響 対応・施策の方向性
短期 中期 長期
リスク 移行リスク カーボンプライシング導入による事業拠点エネルギーコスト増加 炭素税の課税
NZEシナリオ(進展シナリオ):2030年31.3億円 2050年60.6億円
脱炭素化取り組みの推進(2030年・2050年目標達成)
農薬(化学肥料含む)に関する環境規制強化による農産物収量減
カーボンプライシングなどによる農産物生産エネルギーコスト増加
原料農産物の調達額増加
進展シナリオ:2030年2.0億円 2050年5.5億円
標準シナリオ:2030年1.3億円 2050年5.0億円
停滞シナリオ:2030年2.5億円 2050年7.7億円
※ビール原料農産物を対象とした2022年実績基準の試算
農薬規制情報と農薬使用状況の把握
化学農薬に代わる生物的防除や物理的除去法等の総合的病害虫管理の情報収集と生産者動向の把握
物理リスク 温暖化・異常気象による原料農産物の品質低下や収量減 多角的な調達先の確保
異常気象による品質低下リスクの低い大麦・ホップ多収性品種の開発・普及
病害抵抗性に優れた大麦・ホップ新品種の開発・普及
サプライヤーとの連携による総合的病害虫管理の導入に向けた病害虫防除体系の確立
異常気象(熱波、干ばつ、台風や集中豪雨による風水害等)による事業拠点の渇水・洪水(※) 生産停止による損失と復旧費用を想定 既存拠点の水供給の安全性と渇水及び異常気象に対するリスク評価
新規感染症流行による原材料の調達停滞 生産停止による損失を想定 グローバルの食品輸出入動向・規制に関する情報収集・把握
国内生産安定化のための基盤強化
機会 温室効果ガス削減による事業拠点エネルギーコスト(炭素税額)の削減 NZEシナリオ(進展シナリオ)
2030年13.2億円 2050年60.6億円
脱炭素化取り組みの推進(2030年・2050年目標達成)
気候変動に対応可能な品種開発による安定調達 業界での幅広い普及により調達額影響の低減 干ばつや多雨等の気候変動の影響を回避・軽減する大麦・ホップ適応品種の開発・実用化
(2035年実用化に向けて現在開発中の大麦新品種には、麦芽加工時の省エネ効果の特性を合わせ持つものがある)
原料農産物開発と商品開発による競争力の強化 大麦やホップ開発品種を用いた商品
2035年以降 上市規模 ~547億円
ICT・ロボットなどを活用した農業の効率化
品種改良(育種)による品質の安定化
原料農産物価格への影響を想定 国内外のパートナーとの協働による農業の新技術の活用

※ 水リスクへの取り組み

移行計画

緩和策 2030年までの計画(Scope1,2)

緩和策 2030年までの計画(Scope1,2)

サッポログループは温室効果ガス削減目標についてSBT認定を取得しております。SBT1.5℃基準では、目標年に向かう毎年の削減水準が定められており、グループ全体で一定の傾きの削減を目指しています。
このような削減計画を達成させるため、2022年から2030年の8年で約21億円の脱炭素投資を行います。生産拠点では設備の老朽化対策に合わせて高効率化への更新や工程の合理化などの省エネ活動、また、電力を中心に再エネの転換を進めます。脱炭素を目的とした投資判断の枠組みでは、ICP(Internal Carbon Pricing)を主要事業会社で導入しており、今回投資額の試算では6千円/t-CO2を採用しています。

適応策 2050年までの計画

大麦 ホップ
2023
  • 赤かび病耐性、穂発芽耐性を持つ育種材料の養成と特性評価開始
  • 気候変動に対応可能な新たな特性の評価検証・メカニズム解明・遺伝子による判別技術の開発と交配開始
  • ホップ根系の簡易評価系の開発
  • 有用遺伝資源の選抜、評価
  • うどんこ病抵抗性を持つ親を利用した交配、選抜実施
  • うどんこ病抵抗性の遺伝子による判別技術の開発
  • べと病抵抗性の遺伝子による判別技術の開発
2024
  • 少数のうどんこ病抵抗性に関する、遺伝子による判別技術の確立
  • べと病抵抗性の遺伝子による判別技術の確立
2025
  • 気候変動に対応可能な新たな特性を持つ育種材料の養成と特性評価・選抜
  • べと病抵抗性の遺伝子による実生選抜開始
2026
  • 日本(北海道向け)で赤かび病耐性品種を登録出願
2027
  • 複数のうどんこ病レースに対応した抵抗性について、遺伝子による判別技術の確立とそれを用いた実生選抜開始
2028
  • 品種候補の醸造試験
2029
  • 日本(北海道向け)で赤かび病耐性品種を実用化
2030
  • カナダで穂発芽耐性品種を登録出願
  • うどんこ病抵抗性に優れる品種を登録出願
  • べと病抵抗性に優れる品種を登録出願
2031-2034
  • 出願品種の試作・醸造試験
  • カナダで穂発芽耐性品種を実用化
  • 日本(北海道向け)で穂発芽耐性品種を登録出願
2035
  • 日本(北海道向け)で穂発芽耐性品種を実用化
  • 気候変動に対応可能な特性を持つ新品種の栽培面積拡大を検討
2036
  • 気候変動に対応可能な新たな特性を持つ品種候補を登録出願
  • うどんこ病抵抗性を複数併せ持った抵抗性品種の育成
2050
  • 気候変動に対応可能な新たな特性を持つ新品種を実用化

基幹事業である酒類事業では、サッポロビール原料開発研究所を拠点に国内外の大学や研究機関、サプライヤーと連携しながら新品種の開発に取り組んでいます。気候変動により影響が大きくなると想定されるビール主原料について、病害抵抗性に優れ、異常気象でも収量や品質が安定している品種の実用化を目指し、開発を進めています。

指標と目標

前項の対応・施策の中から、特にサッポログループが注力する取組みに対して、以下の通り指標と目標を設定しました。
温室効果ガスの排出抑制等による緩和策では、サッポログループとして中長期のCO2排出削減目標を設定しています。その中のバリューチェーンに関する目標では、今後の具体的取り組みの一つとして、国内の協働契約栽培地域における削減活動を新たに設定しました。農薬などの規制を勘案し、取り組みを国内栽培地域に拡げます。
気候変動の影響による被害を回避・軽減する適応策では、基軸のビール主原料農産物に関する目標を新たに設定しました。干ばつや多雨といった異常気象、それらによる水ストレスや病害など、収量減少や品質低下の要因に対応できる品種の開発・実用化を目指します。

緩和策

2030年

  • 自社拠点からの温室効果ガス排出量(スコープ1,2)を2022年比で42%削減する
  • バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量(スコープ3)を2022年比で25%削減する
  • FLAGスコープ1,2,3の温室効果ガス排出量を2022年比で31%削減する
    - 排出削減活動を国内の協働契約栽培全産地で展開

2050年

  • スコープ1,2,3で温室効果ガス排出量ネットゼロを目指す
    - 使用電力を100%再生可能エネルギー由来にする

排出量実績値は「ESGデータ集」参照

適応策

  • 2030年までに気候変動に適応するための新品種(大麦、ホップ)を登録出願
  • 2035年までに気候変動に適応するための新品種(大麦、ホップ)を国内で実用化
  • 2050年までに上記品種の他、新たな環境適応性品種を開発し、国内外で実用化

その他気候変動に関連する項目は「サステナビリティ重点課題中長期目標」において目標を設定し、グループ全体で達成に向けた取り組みを推進しています。

まだ十分に解析できていないリスクや機会、その対応策、財務インパクトなどについては、引き続き把握を努めるとともに、開示情報の拡充を進めていきます。また、社会情勢の変化により見直しも適宜実施します。

サッポログループ環境ビジョン2050

SAPPORO HOLDINGS LIMITED サステナビリティブック 2020
(140年を超える原料へのこだわりサッポロビールの挑戦)

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